イタリア料理といえば、
ピザ、パスタ、オリーブオイルを思い浮かべる人が多いでしょう。
ペペロンチーノという名前のパスタが有名なので、
「イタリア人は辛いもの好き」
というイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし実際には、唐辛子を積極的に使う地域は限られています。
その代表格が、イタリア半島の“つま先”にあたるカラブリア州です。
カラブリアを旅すると、驚くほど頻繁に唐辛子を目にします。
レストランのテーブルの上。
土産物屋の軒先。
市場の店先。
そして家庭の台所。
まるで唐辛子が州のシンボルのようです。
なぜカラブリアの人々はこれほどまでに唐辛子を愛しているのでしょうか。
唐辛子はイタリア生まれではない
唐辛子はもともとヨーロッパの植物ではありません。
原産地は中南米。
15世紀末、コロンブスの新大陸到達以降にヨーロッパへ持ち込まれました。
トマトと同じく、
今ではイタリア料理に欠かせない存在ですが、
歴史的には「外から来た食材」です。
では、なぜカラブリアでこれほど普及したのでしょうか。
貧しい土地が生んだ知恵
カラブリア州は長い間、イタリアの中でも経済的に厳しい地域でした。
山が多く、農業に適した土地は限られています。
そのため、昔の人々は、限られた食材で工夫しながら生活していました。
そんな中で重宝されたのが唐辛子です。
塩や香辛料が貴重だった時代、
唐辛子は比較的育てやすく、
料理に強い風味を与えてくれました。
少量でも強い風味を与え、
質素な食事を豊かに感じさせてくれる存在だったのです。
保存性が高く、育てやすいことも普及を後押ししました。
言ってみれば、カラブリアの唐辛子は「庶民の味方」でした。
イタリアでもっとも辛い地域?
一般的なイタリア料理は、北から南まで辛さ控えめのものが多い傾向にあります。
しかしカラブリアでは例外的に、さまざまな料理に唐辛子が使われます。
パスタ、
肉料理、
サラミ、
保存食。
日常のあらゆる食文化に唐辛子が溶け込んでいます。
その象徴的な存在が「ンドゥイヤ(’Nduja)」です。
ンドゥイヤというカラブリアの味

ンドゥイヤは、豚肉と大量の唐辛子を練り合わせたペースト状のサラミです。
見た目はソーセージのようですが、中身は柔らかいペースト状。
パンに塗ったり、パスタソースに加えたり、ピザに乗せたり。
使い方はさまざまです。
もともとは豚の端肉を無駄なく利用するために作られた保存食でした。
ここにもカラブリアらしい生活の知恵が表れています。
辛さだけでなく、旨味も非常に強いため、一度食べると忘れられない味です。
唐辛子は幸運のお守り

カラブリアで面白いのは、唐辛子が食べ物であるだけではないことです。
街を歩いていると、唐辛子の形をしたキーホルダーやアクセサリーをよく見かけます。
これは「コルネット」と呼ばれるお守り。
魔除けや幸運の象徴にもなっています。
細長い赤い形が角に似ていることから、
邪悪なものを遠ざける力があると考えられてきました。
日本でいう招き猫やお守りのような存在でしょうか。
お土産屋では、唐辛子のキーホルダーやアクセサリーが並んでいます。
初めて見る人は
「なぜこんなに唐辛子グッズがあるのだろう」
と不思議に思うかもしれません。
しかし現地ではごく自然な光景です。
唐辛子は食文化であると同時に、地域文化そのものなのです。
ペペロンチーノ祭りまである

カラブリア州北部にあるディアマンテという海辺の町では、
毎年唐辛子をテーマにした祭りが開催されます。
その名も「ペペロンチーノ祭り」。
期間中は町全体が唐辛子一色になります。
唐辛子を使った料理の屋台や
イベントや展示、
世界各地の辛い料理が集まります。
まさに唐辛子好きのためのお祭りです。
それだけ地域に根付いていることがわかります。
辛さの奥にある歴史
カラブリアは、有名な観光地ではないかもしれません。
けれど、赤い唐辛子が揺れる風景を見ると、
「ああ、カラブリアに来たんだな」
という気持ちになります。
カラブリアの唐辛子文化は、単なる「辛いもの好き」の話ではありません。
そこには、
貧しい土地で生き抜く知恵
保存食の歴史
地域の誇り
魔除けの信仰
といったさまざまな物語があります。
旅行中にンドゥイヤを見かけたら、
あるいはレストランで唐辛子の効いたパスタを食べたら、
少しだけ思い出してみてください。
その辛さの奥には、
何世代にもわたって受け継がれてきたカラブリアの暮らしが隠れているのです。
イタリアには数え切れないほどの郷土料理がありますが、
「州の個性」がここまではっきり表れている食材も珍しいかもしれません。

コメント