シチリアを旅していると、必ず目にする食べ物があります。
それは、揚げたライスコロッケのような「アランチーニ」。
バールのショーケースや惣菜店には、
こんがりきつね色に揚がったアランチーニが並んでいます。
ところが、
「あれ?昨日はアランチーノだったのに、今日はアランチーナ?」
と戸惑った経験はありませんか?
どちらもシチリア名物のライスコロッケなのですが、地域によって呼び方が違うのです。
しかもシチリアの人たちは、この話題になるとなかなか真剣です。
今回は、「アランチーノ」と「アランチーナ」の不思議なお話です。
そもそもアランチーノとは?
まずは料理そのものから。
アランチーノ(またはアランチーナ)は、
サフランで色付けしたライスの中に具材を詰め、
パン粉をまぶして揚げたシチリア名物です。
外はカリッと、中はもちっとした食感。
具材はさまざまですが、定番はミートソースとグリーンピースを入れたものです。
駅の売店やバールでも気軽に買えるため、シチリアではおやつにも軽食にもなっています。
日本でいえば、おにぎりとコロッケの中間のような存在かもしれません。
名前の由来は「オレンジ」
この料理の名前は、
イタリア語の「arancia(アランチャ)」に由来しています。
アランチャとはオレンジのこと。
丸く揚がった姿がオレンジの実に似ていることから、
この名前が付いたと言われています。
確かに揚げたてを並べると、
小さなオレンジが転がっているようにも見えます。
シチリアは柑橘類の名産地でもあるので、なかなか土地らしい名前です。
なぜ、2つの呼び方があるの?
ここからが面白いところです。
シチリア東部、特にCatania周辺では「アランチーノ」と呼ばれます。

一方で、州都のパレルモを中心とする西部では「アランチーナ」が一般的です。

同じ食べ物なのに、名前が違う。
しかも地元の人たちは、この違いに意外とこだわっています。
「アランチーナだ!」
「いや、アランチーノだ!」
そんな会話になることもあるそうです。
ちょうど、日本でいう「今川焼き」と「大判焼き」の違いに少し似ているかもしれません。
名前だけでなく、形も違う
さらに面白いのは、呼び方だけではありません。
形にも違いがあります。
パレルモ周辺でよく見かけるのは丸い形。
オレンジに似せた球形です。
一方、カターニア周辺では円錐形のものが多く見られます。
これは近くにそびえるエトナ山をイメージしているとも言われています。
もちろん例外もありますが、
旅をしていると地域ごとの個性が感じられて面白いところです。
どちらが正しい?
旅行者としては、
「結局、どちらが正しいの?」
と聞きたくなります。
答えは、
「どちらも正しい」
です。
言語学者や料理研究家の間でも長年議論が続いています。
パレルモの人は「オレンジは女性名詞だからアランチーナが正しい」と主張し、
カターニアの人は「昔からアランチーノと呼んでいる」と譲りません。
シチリアらしい地域愛が感じられる論争です。
実際には、どちらも広く使われており、
どちらを注文してもおいしいライスコロッケが出てきます。
シチリアを旅していると、店の看板に「Arancino」と書かれていたり、「Arancina」と書かれていたりします。
そんな時は、
「ああ、ここは東側なんだな」
または、
「パレルモ文化圏なんだな」
と考えてみると面白いかもしれません。
けれど、その違いに、その土地の歴史や誇りが詰まっています。
シチリアらしい論争
イタリアでは、食べ物の話になると地域ごとのこだわりがよく現れます。
パスタの作り方。
チーズの種類。
伝統料理のレシピ。
そしてアランチーノとアランチーナ。
旅行者から見ると同じものに見えても、地元の人たちにとっては大切な違い。
現地の人に、
「アランチーノとアランチーナ、どっちが正しいの?」
と聞いてみたらどうでしょう。
きっと予想以上に熱の入った答えが返ってくるはずです。
それもまた、シチリアという島の面白さなのかもしれません。


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