ミラノ市内を歩いていて、気になる名前の店を見つけました。
この名前の店を見かけたのは、1度や2度ではありません。
それは、
「Pan per focaccia」
という店の名前。
フォカッチャのためのパン。
……え、どういうこと?
フォカッチャ専用のパン?
それともフォカッチャをもっとおいしく食べるための何か?
そんなよくわからないまま、「パンとフォカッチャの専門店なんだろう」と納得して、
私はその店に入ることにしました。
甘い誤解のまま入るパン屋
いずれも、店内はパン屋とバールが合体したようなタイプの店でした。
ショーケースにはフォカッチャ、素朴なパン、クッキーのような焼き菓子も少し。
「ああ、やっぱりフォカッチャ推しのパン屋なんだ!」
そう思いながら、私は自然とフォカッチャを選びました。
オリーブオイルが光っていて、見るからにおいしそうです。
後から知る「本当の意味」
あとで調べてみて、私は少しだけ固まってしまいました。
正確には、
Rendere pan per focaccia
という表現。
直訳すると、
「フォカッチャに対してパンを返す」という意味。
実際には、
「やられたらやり返す」
「同じようにお返しする」
英語でいう「tit for tat」
日本語だと、
「同じ土俵で返す」「しっぺ返しをする」
に近い表現でした。
なぜ、パンとフォカッチャ?
実は、その由来ははっきり分かっていません。
ただ、中世にはすでに使われていた表現で、
14世紀のボッカッチョの『デカメロン』にも登場します。
一般的には、
「同じような価値のものを返す」
という意味から生まれたと言われています。
パンもフォカッチャも、どちらも小麦から作られる食べ物。
つまり、
「同じもので返す」
↓
「同じようにやり返す」
という意味になったのかもしれません。
イタリア人は今でも使う
この表現は今でも普通に使われます。
例えば、
Mi ha tradito e gli ho reso pan per focaccia.
「彼に裏切られたので、同じようにやり返した。」
という具合です。
少し強い表現なので、
日常会話では冗談っぽく使われることもあります。
名前の意味を知った後にもう一度見る店
改めて考えると、
パン屋やバールが
「Pan per Focaccia」という名前を付けているのは面白いですね。
日本で言えば、
“ベーカリー「しっぺ返し」”
という名前のパン屋があるようなものですから。
もちろん、パンとフォカッチャを扱う店だからこその言葉遊びでもあるのでしょう。
不思議なのは、意味を知ったあとでも、そのパン屋の印象は悪くならないことです。
むしろ、
「うちはただのパン屋じゃないよ」という、
ちょっとしたユーモアのようにも思えてきます。
旅の誤解は、あとから味が出る
旅先での勘違いは、その場ではただの思い違い。
でもあとから意味がわかると、
その場所の記憶が少しだけ立体的になります。
Pan per focacciaは、私にとってまさにそういう場所でした。
イタリアを旅していると、ときどき辞書だけでは分からないイタリア語に出会います。
それもまた、旅の楽しみのひとつなのかもしれません。

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